治具づくりのススメ ものづくり上達のコツ

器用である必要はない

ものづくりのワークショップをおこなっていると、「つくる」という作業に尻込みする人に出会うことがある。たぶん、自分がつくったものの完成度に満足できない、イメージ通りにできない、手先が不器用だから、というのがその理由だろう。もしかしたら「ものづくり」を生業にしている私たちの前で不器用な自分を晒すのはツラいと感じているのかもしれない。

でもね、実のところ私自身もいうほど手先が器用なわけではない。不器用な部分が多い。というか、同業者にもすごく器用な人って、少ない。もちろん中には、この細かい造形をフリーハンドでつくりあげたの?って驚くくらい手先の器用な人に出会うこともあるけれど、そんなことは本当に稀中の稀。何年かに一度あるかないかだ。

というより、「ものづくり」に関して、器用か不器用かはそんなに関係ない。

じゃあどうしているのかというと、たとえば、カットしたい位置で正確に切れる仕組みを考える。そういう、工具をサポートする仕組みを「治具(ジグ)」という。そういう思考ができることこそが重要なんだ。

こんなふうに考える

たとえばこれは、アルミ缶でアルコールストーブをつくるときに使用する治具。

枠状に組んだ木材の真ん中にアルミ缶を差し込み、刃を当ててくるくる回せば、刃の高さの場所で必ずカットできるようになっている。板枠に刃をセットしただけで、かなり正確にアルミ缶をカットすることができる。枠は、缶のサイズピッタリにつくられているので、ズレることができない。

後々、底上げアダプターをつけられるように改造したので、缶のどの位置でもカットができるようになり、直径の違う缶に対応できるようにパーツも追加したので、アルミ缶工作の幅が広がった。

たかが、アルミ缶工作のためにここまでの用意をするのが馬鹿らしく感じられる人もいるかもしれないが、きれいにカットできる、仕上げられる、というのは、思った以上の感動と満足感を与えてくれるものだし、結果的には作業時間の短縮にも繋がる。

治具から見えてくる

私は設計士としての仕事もしているけれど、きちんと設計を完成させたからといって、それで実際に建物や家具が完成するとは限らない。

その設計図を読んで実際に部材を作成して組み上げる職人さんや大工さんが必要になってくる。大工さん、職人さんたちの腕前も千差万別で、その中からどうやって優れた人を選ぶかが重要になる。

そんなときには、その人がつくった治具を見せてもらうことにしている。合理的な治具、なるほどと感心できる治具をつくれる大工さん職人さんは、大抵腕がいい。そういう人は設計に対してもアドバイスもくれたりして、ただ制作作業をしてもらうという一方的な関係から、相互にアイデアを出し合うクリエーティブな関係になるので、作業がとても楽しくなる。

治具脳を鍛えよう!

ものづくりに関わる人間は、必ずしも器用ではないし、器用であることが絶対条件でもない。つくりたいもののイメージを持つこと、そして、それをつくるための合理的な仕組み=治具を考えられること、これこそが絶対条件なんだ。

「つくらし」では、治具づくりに焦点を当てたワークショップもあるし、治具について知る&考える時間を設けたワークショップもある。

治具がつくれるようになると、ものづくりはより楽しくなるし、この「目的を達成するためのサポートする仕組みを考える」という思考をいつでもできるようになったことは、ものづくりだけでなく、仕事の中でプロジェクトを運営するようなときにも応用できるとても有効な方法だと感じている。みなさんも治具脳を鍛えてみたらどうだろう!